腰痛ラボ

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【岡田隆さん 後編】
「痛みの正体を知り原因を突き止める。これがセルフ理学療法の基本!」


「痛みの正体を知り原因を突き止める。
これがセルフ理学療法の基本!」

今回の腰痛セレブは、理学療法やスポーツ科学のスペシャリストであり、現役のボディビルダーとしても活躍されている日本体育大学体育学部准教授の岡田隆先生です。前編では現在の取り組みや理学療法について、また、先生ご自身の腰痛についても伺いました。後編では、ご著書『骨格バランス改善メソッド』を参考にさせていただきながら、体に痛みや不調が生じる原因について伺いました。

—— 前回、理学療法について伺い、痛みや不調の成り立ちの構造を理解することが大切であるということがわかりました。今回は、体の痛みや不調の発症メカニズムを教えてください。

岡田隆先生(以下、岡田)

   『骨格バランス改善メソッド』では、ほとんどの痛みや不調の原因になっている「骨格バランスの崩れ」をベースに解説し、自分で体の痛みを改善するメソッドとしてセルフ理学療法を提唱しています。痛みや不調の改善レシピは、5つのステップで考えるとわかりやすいと思います。

—— 改善レシピの5つのステップとは?

岡田 1 痛みや不調の正体を知る「症状分析」
     ↓
2 痛みが発症した原因を突き止める「原因特定」
     ↓
3 体のバランスが崩れた日常生活の原因を取り除く「原因排除」
     ↓
4 マッサージで緊張をほぐすく「症状緩和」
     ↓
5 ストレッチや筋トレで体のバランスを整えるく「再発予防」
という流れです。

 

—— なるほど、まずは症状の分析と原因の特定ですね。それに役立つ様々な原因も5つの項目に分けて説明されています。思わず「わかる、わかる」とつぶやいてしまいました・・・

岡田 治し方を知っているというのがセルフ理学療法ですが、自分の体の状態を見極めて的確に表現するのは専門家でないとなかなか難しいですよね。具体的な5つの項目を手掛かりにして痛みや不調の正体を知ってください。

①【姿勢の乱れ】
骨盤が後傾
       ↓
脊柱のS字カーブが損なわれる
       ↓
人体(特に体幹)にかかる重りを分散できない
       ↓
さまざまな不具合や痛み

*正しい姿勢とは、体への負担が最も少なく、体を最も効率よく支え動かせる状態。

 

岡田 これは様々な状況が考えられますが、最も身近なことでは「足を組む」という行為ですね。足を組むと体が傾くのでバランスが崩れます。その瞬間だけの負荷を考えれば大したことはありませんが、長時間にわたったり、毎日だったり、繰り返されることで無視できそうに思えるレベルの左右差が深刻な痛みや不調に繋がっていきます。そんなことで?と、思われるかもしれませんが、厚手のハンカチをズボンの後ろのポケットに入れて座るだけでもバランスは崩れます。その時は大丈夫でも、そうやってバランスが崩れたままの状態で、続けて別の動きをしたり、運動をしたりすることで痛みを発症することはよくあるのです。

—— 積み重ねは侮れないということですね。そういえば、腰痛ラボ編集部内で、ハワイでゴルフをした後に、あまりに気持ちが良かったので、続けて普段はしないジョギングをしたらぎっくり腰になってしまったという話が出ました。

岡田 ゴルフでバランスが崩れた状態のままで、いつもと違う運動をしたためにぎっくり腰になってしまったのですね。リセットしてからなら、問題はなかったでしょうね。以前、デスクワーク中心の女性が腰椎ヘルニアになったと伺い、はじめは理解できませんでした。スポーツが原因ではないし、特に重いものを持つこともないのに何故?と。でも、悪い姿勢を続けたことが原因だったんです。足を組むこともそうですし、椅子に浅く座って骨盤が後傾して脊柱のS字カーブが失われた状態を長く続けたことで腰椎ヘルニアが引き起こされたんです。
この小さな乱れの“蓄積”がくせもので、緩やかに進んでいけばどこかで気付きそうですが、突然ガツンとくるんです。突然、取り返しのつかないレベルになってしまう。だから怖いんです。これは次の「生活習慣」にも関わることですね。

②【生活習慣】
「見る姿勢」「歩行動作」「座り姿勢」といった日常生活の小さな乱れが積み重なって骨格をゆがめ、腰痛はじめ多くの痛みや不調の発症につながる。

岡田 姿勢の乱れと同様に、左右に偏りの生じる動きをしたり、前屈を繰り返すといった同じ動作の繰り返しなどの習慣は、癖として体に染み付いて、筋肉の使い方が変わってしまうこともあります。

—— でも、日常的な習慣なのでなかなか気づきませんよね。

岡田 そうなんです。例えば、インタビューをしながらメモを取っているときは、ペンを持つ手元に注意が集中していますが、そういう何かに集中している時に、様々な癖が見えてくるんですよ。体が傾いていたり、歯を噛み締めていたり、そういう自分の小さな癖に気づくことができるかどうかが鍵ですね。

—— 集中した状態の直後に、冷静に振り返ってみます。あ・・メモを取りながら歯を食いしばっていました・・・


③【加齢】
筋力が衰え、関節が老化して正しい姿勢を維持できなくなる。

岡田 これは誰にでもあてはまることです。加齢に伴い筋肉量が低下→運動意欲がわかなくなり運動量が低下→さらに筋力が弱まる・・・このような悪循環が考えられます。また、脊柱、椎骨、椎間板も劣化します。特に椎間板は年齢とともに水分が減り、クッション力も低下。その結果、頚椎および腰椎の変形、痛みに繋がる場合もあります。

—— でも、加齢による様々な劣化は避けられませんよね・・・

岡田 ですが、筋力は筋トレやストレッチを行うことで衰えを抑えることができます。骨や椎間板は変形してしまうと修復は難しいのですが、正しい体のバランスで生活をしていれば、変形や老化を最小限に抑えることは可能です。

—— 少し安心しましたが、いずれにしても運動は必要ということですね。

④【運動不足】
運動不足で筋肉を使わなくなる→血流が悪くなる、筋力が衰える、筋肉が硬くなる

岡田 運動不足は③の加齢が原因で起こる状態を加速させますが、その逆もあるんです。きちんと運動している高齢者の方が、運動をしない若者よりも筋力があるなんてこともありますから。
運動機能の三要素は「筋力」「柔軟性」「バランス」ですが、運動不足や加齢によってこれらが全て落ちていくんです。運動不足で筋肉が使われなくなると「筋力」が衰え、関節の可動域が狭くなり、「柔軟性」も失われるので体が硬くなります。でも、運動をすることでそれをある程度は抑えることができるということがわかっていますから、運動はした方がいいでしょう。

⑤【疲労】

岡田 これも運動不足と同じようなことが起こります。筋肉の疲労によって「筋力」が低下して「バランス」が取れなくなる=いい姿勢がとれなくなってしまいます。
同じ姿勢を続けると、その姿勢を続けるための一部の筋肉が収縮を続けて血管を圧迫するために血流が悪くなり、筋肉は緊張状態で酸欠になります(=筋肉が働き続けることで生じる疲労)。そうなると静脈の血流も低下して、筋肉中の老廃物や疲労物質が回収されずに溜まり、筋肉はさらに疲労することに(=筋肉が正常に動かないことで生じる疲労)なってしまいます。

—— 筋肉の疲労がさらなる疲労を引き起こすというわけですね。恐ろしいです。

岡田 筋肉疲労の負の連鎖ですね。以上の項目を参考にして、自分の体にどのような異変が起こっているのかを見極めてください。そして、発症している痛みや不調の正体を知る。これが、セルフ理学療法によって痛みや不調を改善するための大切な初めの一歩になります。原因がわかったらそれを取り除く段階、症状を緩和して再発を予防する段階に進みます。

—— まずは自分自身と向き合うことから、ですね。次回の特別編では、二回に分けて腰痛のメカニズムと改善するためのマッサージ、ストレッチ、筋トレを原因別に紹介していただきますので必読・必見です。

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