腰痛ラボ

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【岡田隆さん 前編】
「トップアスリートに必要なのは
”丁寧な暮らし” と ”上質な座り” だった」


「トップアスリートに必要なのは ”丁寧な暮らし” と ”上質な座り” だった」

今回の腰痛セレブは、理学療法士でスポーツ科学のスペシャリスト、また現役のボディビルダーとしても活躍されている、日本体育大学体育学部准教授の岡田隆先生です。筋トレ、骨格、関節、除脂肪、食に関することなど、わかりやすく解説された先生の数々のご著書はどれも大好評。大学での授業だけでなく、講演会やメディア出演、執筆と超多忙な岡田先生、前編では現在の取り組みや理学療法について、また、先生ご自身の腰痛事情についても伺います。

—— 岡田先生は日本体育大学体育学部准教授のほか、理学療法士、アスレティックトレーナーなど数々の資格や肩書きをお持ちで、現役のボディビルダーとしても活躍されていますが、多数の資格を取られ、学ばれることになるきっかけはどんなことでしょう。

岡田隆先生(以下、岡田)

   僕自身が競技者として・・・当時は柔道でしたが、怪我が多かったことと、常に苦労していた様々な痛みや違和感などを、柔道を続けていくにあたってできるだけ少なくしたいということから理学療法を学びました。ですので、自分自身の体験が一番のきっかけですね。

—— 骨、関節、筋肉など体に関するあらゆることを学ばれたのですね。

岡田 何か一つだけでは不十分なんです。骨は関節で繋がり、それらは筋肉で動かされ、全ては神経系でコントロールされているというように全てが関わり、繋がっていますからね。症状によって一つ一つ異なる肉体不調のメカニズムを正しく分析して、原因を突き止めるという思考過程と、そこから導き出された対処法をシステマティックにプログラミングして提供し、そして実践するというのが理学療法なんです。理学療法というのはひとつの考え方、思考体系なんですよね。そのためには、骨や関節、筋肉などの仕組みや機能などについて正しく理解しなくてはなりません。

—— 肉体不調のメカニズムは多様かつ複雑で、一つ一つ全て異なると言っても決して過言ではないということですね。

岡田 はい、例えば「腰痛」になった原因は同じだとしても、経過が違えば状態も異なってきます。腰を前に曲げた時の腰痛という風に範囲を狭めたとしてもです。実際に触って、動かしてみてその人の身体が今、どのような状態にあるのかを見極めることがまず必要になります。

—— 岡田先生はスポーツ科学のスペシャリストとして、たくさんのトップアスリートの肉体ケア、トレーニングを行なっておられますがそこでどんなことを感じられるのでしょう。

岡田 まずは、競技レベルはどんどん上がっていて、常に“今”がその最高レベルということになります。当然、肉体のポテンシャルを最大化させなければ世界的な大会では勝てないとなると、ギリギリまで鍛え込むトレーニングをすることになり、怪我と隣り合わせの状況になります。

—— もっと速く!もっと強く!ということが求められる大変な世界ですね。スポーツ科学の役割とは?

岡田 スポーツ科学というと、主にスポーツの一番わかりやすい場面を切り取って研究されています。例えば陸上の100mならば当然、どう走ってタイムをどう縮めるか、とか。それももちろん重要なことですが、でも、そこにたどり着くための練習というのがあって、それが日々の生活なんです。これが実はアスリートにとってとても大切だと僕は考えています。勝ちにつながる練習を積み重ねていくために必要なことだと。残念なことにこの部分についてはほとんど研究されていませんが、毎日をいかに丁寧に過ごすか、これはすごく大事だと思います。

—— なるほど。最近は、上質な睡眠の重要性が注目されていますね。

岡田 そうですね。例えばイチローさんが遠征地に枕を持参するということはよく知られていることですし、我々もオリンピックに上質な眠りを研究しているメーカーさんから提供していただいた枕を持って行きます。睡眠が大事だということは少しずつ理解され、浸透してきています。とはいってもまだ一部だと思いますが。ですが、それ以外の日常・・・特に長時間“座る”ことへの関心は低く、座り姿勢の重要性に関してはほとんど注目されていません。でも、日本のトップアマチュアなら、半日か1日、デスクワークをした後に練習をする場合が多いでしょう。睡眠時間より座っている時間の方が長いという人もいるかもしれません。それに、座らない人はいませんよね。と、なれば睡眠だけの管理では不十分だと思います。

—— 丁寧な暮らしが、勝ちにつながる練習を行うために必要というのはわかる気がします。地味でわずかなことの日々の積み重ねが大切、ということですね。それは昔からそう感じておられたのでしょうか。

岡田 以前、アジア大会で遠征した時に、野球の日本代表選手と一緒になったことがあるのですが、日本代表の超トップ選手たちが夜、高校球児のように熱心に素振りを行なっていたんです。その時は「もう十分な実力があるはずだし、いまさら素振りをするなんて・・・果たして意味があるのだろうか?」と、思っていました。でもその後、多くのトップアスリートと関わり、様々な経験をして“今持っている技術レベルを落とさないことがとても大事”だということがわかりました。そのためには日々の積み重ねしかないんです。「そんなに簡単には落ちないでしょう」と、思われるかもしれませんが、ほんの少し、コンマ数秒の遅れがトップパフォーマンスには大きなマイナスになる。コンマ数秒を落とさないための練習をするためには、その練習に100%の状態で入るための日々のあり方、丁寧な暮らしが大事なんです。

—— なるほど、スポーツ以外にも当てはまりそうないいお話ですね。“座り”といえば、先生も執筆などでデスクワークが多いと思うのですが腰痛はありますか?上質な“座り”を実践しておられますか?

岡田 腰痛は基本的にはありませんが、練習でとてつもなく重いものを持った時になったことは何度かあります。そして、おっしゃる通り、デスクワークや講演会などで骨盤を後傾させて座る椅子に長時間座るとものすごいストレスを感じますし、腰が張ってしまいます。その状態のままでは筋トレはもちろん、ストレッチすらできませんから、まずほぐします。ストレッチポール等で、脊柱起立筋(*)をほぐして正しい姿勢、カーブにリセットします。でも、アーユル チェアーがあれば、座るだけで正しい姿勢にリセットできるのですごく楽です。もちろん、研究室ではアーユル チェアーに座っているのでそのままトレーニングができます。

*脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん):脊柱に付着して走行する背面筋群の総称。主に背骨を反らせる動き(体幹伸展)に働き、背筋を伸ばした状態の維持に貢献。

—— 長時間座って腰が張った状態のまま、ほぐさないで筋トレをするとどういうことになるのでしょうか?そんなに違うものですか?

岡田 十分にほぐさず、筋肉の動きが悪い状態で筋トレを行なったとします。正しい状態、いい状態で行なった場合ならその1.2倍くらいの動きができると感じていますから、それを10回行えば2回分の差が生じます。それをさらに10セット行うと20回分の差が出て、我々のように毎日筋トレをする人なら一週間で140回。1年でみたらとてつもない差になってしまうんです。いい状態で筋トレをしないと無駄が出て、結果的に効果を最大化できないんです。このたったの2回を大切にできるかどうかが、分かれ道だと思います。

—— 具体的な数字で説明していただくとよくわかります。動きのいい状態で筋トレすれば無駄なく、隅々まで動かせるということですね。

岡田 隅々まで体を動かすということは、筋肉に対して単に負荷をかけるということではなく、隅々まで循環=血流を良くするということでもあります。そういう風に筋肉を上手く使える人、余すことなく使える人は体脂肪がつきにくい、落ちやすいと感じます。僕が、要となる腰を必ずほぐしてから筋トレを行う理由はそこにもあります。

—— 筋肉を余すところなく使うことの効果は大きいですね。先生は柔道全日本男子チームの強化部門長を務められていますが、柔道のトレーニングでも腰が張るということはあるのでしょうか。

岡田 たとえ長時間座らなくてもトレーニングによって腰が張ります。なので、トレーニング後には必ず、マッサージでほぐします。厳密にはそこまでで、トレーニングは終了ということになります。ほぐさないで寝てしまうと、寝る姿勢や、睡眠中の回復にも悪影響を及ぼし、次の日はもっと悪くなってしまいますから。ただ、トレーニング後にミーティングを行うチームもあると思いますが、その場合椅子に座って1時間くらい、和室なら床に体育座りやあぐらで過ごすことになります。そうすると、骨盤が後傾して腰部が硬くなり、腰椎の前弯カーブ(*)が伸びてしまって、せっかくほぐした腰がまた張ってしまうんです。もったいないですよね。

*腰椎の前弯(ぜんわん)カーブ:腰にかかる重力を分散させている。カーブがなくなると椎間板への圧力も高まる。

—— 台無しですね・・・

岡田 そういうことにまで注意するのが僕の役割ですから、今後は座る姿勢の大切さをもっと伝えていかなくてはいけないなと思っています。睡眠の大切さがやっと理解されてきたので、次は上質な座り、ですね。頑張ります。

—— 「腰痛ラボ」としても是非、そうしていただきたいです。後編では、ご著書を参考にさせていただきながら、体に痛みや不調が生じる原因について伺いたいと思います。

公式サイトhttps://bazooka-okada.jp/

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